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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)14264号 判決

原告 日本放送協会

右代表者会長 前田義徳

右訴訟代理人弁護士 妹尾晃

同 谷口茂昭

同 奥山滋彦

被告 青木健

〈ほか二名〉

右被告ら三名訴訟代理人弁護士 小泉征一郎

主文

被告らは原告に対し、各自金九四万八、五九一円およびこれに対する昭和四五年一月一六日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

(当事者双方の申立)

原告は主文同旨の判決を求め、被告らはいずれも「原告の請求を棄却する。」との判決を求めた。

(請求原因)

一、被告らは昭和四四年一〇月二一日のいわゆる国際反戦デーにあたり、訴外杉原久富、同阿部克哉、同井手真人と東京都渋谷区神南町二五番地所在の日本放送協会放送センターに侵入しようと計画し、同日午後零時一〇分ごろ、それぞれ、薬品入りのビールびん様のもの(いわゆる火炎びん)数本を同放送センター西口玄関付近に投げつけ鉄パイプを振りまわしながら、全員一団となって同玄関から同放送センター内に侵入し、そのさい右暴行により原告所有の別紙一覧表(一)記載の物件を損壊し、

二、被告ら三名と杉原久富はさらに引続いて、同放送センター内のCT一一一スタジオ用副調整室に至り、同室内で就業していた原告の職員一名を実力をもって追出したうえ、同被告ら共同して、同室内の放送用機器等に所携の鉄パイプを叩きつける等の暴行を働きよって、原告所有の別紙一覧表(二)記載の各物件を損壊した。

三、原告は前記損壊された各物件をまもなく修復したが、この修復のため別紙一覧表記載のとおり合計金一三〇万四、二一八円の支出を余儀なくされ、同額の損害を蒙った。

四、右の各損害は被告らの共同不法行為によるものであるから、原告は被告ら各自に対して右の損害金一三〇万四、二一八円のうちまだ弁済を受けていない金九四万八、五九一円および、これに対する右不法行為の後の昭和四五年一月一六日から右完済に至るまで年五分の割合による損害金の支払いを求める。

(請求原因に対する答弁および抗弁)

一、原告主張の請求原因事実中、原告主張の日時に被告らが、日本放送協会の放送センターに侵入した事実は認めるが、その余の事実は争う。

二、かりに、被告らが、原告主張の物件を破損したとしても、これは正当防衛であり、不法行為は成立しない。すなわち、日本放送協会は戦前において、軍国主義的な思想統制の役割を果たしてきたし、戦後においても、権力者の側に立った反国民的性格を強化し、放送の自由、放送を通じての思想表現の自由に対し数々の侵害行為をなし、その電波による国民の思想支配はすでに恐るべき程度に達しているので、被告らはこの事実を正しく指摘し、国民に警鐘を打ちならしたものであって、まさに正当防衛ないし緊急避難である。

(証拠)≪省略≫

理由

一、被告らが、昭和四四年一〇月二一日、東京都渋谷区神南町二五番地所在の日本放送協会放送センターに侵入したことについては当事者間に争いがない。

二、≪証拠省略≫によれば、被告らが右放送センターに侵入したさい、他の学生三名とともに同放送センター西口玄関付近で薬品入りのびん(いわゆる火炎びん)数本を投げつけたり、鉄パイプを振りまわすなどして同玄関の自動扉機およびそのガラスを破損したことが認められ右認定に反する証拠はないけれども、右の破損によりいかほどの損害が発生したかについてはこれを確定できる証拠はない。

三、つぎに、≪証拠省略≫によれば、被告らは右西口玄関から侵入したのち、前記の学生のうちの一名とともに右放送センター二階にあるCTスタジオ一一一に侵入し、同所で作業中の訴外加藤喜芳を室外に追出し、被告らが一団となって、同所にあった原告所有の別紙一覧表(二)記載の放送用機械をこもごも所携の鉄パイプで叩くなどの暴行をなし、右暴行により、右各機械を破損して、それぞれ同表記載の各修復費合計金一二六万四七八八円の出捐を余儀なくしたことが認められ右認定に反する証拠はない。

四、被告らは、被告らの右行為は正当防衛である旨主張するが、かりに原告日本放送協会の性格や行為について被告らの主張するようなものがあったとしても、暴力を行使することは違法であることは論をまたないところであって被告らの行為の違法性を阻却するような緊急性、あるいは正当性についてはこれを認めることはできないので、右被告らの主張は採用できない。

五、そうすると、被告らは右機械の破壊により原告に生じた金一二六万四、七八八円の損害を賠償すべき義務を負担したといわなければならないので、右のうち金九四万八、五九一円およびこれに対する被告らの右不法行為の日より後である昭和四五年一月一六日から右完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は理由がある。

よって、原告の本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条一項但書、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 緒方節郎 裁判官 定塚孝司 水沼宏)

〈以下省略〉

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